33回の続き
(楽器の裏側を眺めながら)
ま 裏板の左右はやっぱり少しずらして使うの?
表面板は1ミリか2ミリずらすんでしょう。
な 理由は見た目にセンターが分かるようにという事らしいですね、
別にわかればどちらでもいい。
ま こういう縞がはっきり出る様な物は、ずらしたらはっきり分かる様な
層になるのではないかと思うね。ずらしたらずらしたでそれはまた
面白いかと思ったよ。裏が3枚とかいうのもこれから出てくると。
な あってもおかしくないし。
ま あれはあれでデザインの作りようがあるし。
さ ケヴィンにはありますね。内側にメイプルを使ったのが80年代から。
な あれこそハイブリッドじゃないですか。
ま 内外変えるという意味ではそうか。
な 結構部分的にメープルを持ってきたら、そこはメープルのテイストが出るのです。
さ 比率でも違うしね。
ま 重さの点で違う物が入っているね。
な それをせざるを得ない状況が発生したとしたら、やっぱり対称の位置は同じ物を使った方がいいですね。
ま 3枚あって真ん中が右か左と同じ物だとおかしいよね。
な いや、そういうのは材として存在しないのではないでしょうか、
多分できるということは2枚はぎにもできるという事ではないですか。
ま うーん、そうじゃなくて、一つのブロックから3枚とればいいことでしょう。例えば厚さ3センチのものから3枚とればいい。
な それは材の切り出しの段階で?
ま うん。だって幅が狭いからそうするんで、幅は狭いけど厚さはどうだかまだわからない
な なるほどね、でも要するに、僕のスリーピースなりフォーピースの考え方は…
ま わかるわかる、薄い板に製材されているのを想像しているでしょう?
な そう、2ピース用で出てきて、でもここは使えないからカットしなくてはいけないというのを再利用するための。
ま 幅12センチの角材があったとしたら3枚が取れると思うけど、どっちにしても柄の出たやつでやると格好よくないね。
な 同じ材で、目のきついハカランダでやるとしたら偶数の方がいい。
ま 4枚でも?
な うん。
ま そうか。反対に縞がないくらいの材なら3枚にしたって全然おかしくない。
な 同じ物だったら分からないですけど、感覚的に偶数にしたくなります。
ま そう? だけど、3枚の方がきれいだと思うよ。
さ ロディがそうだった…4枚か?
な あれは4枚でしたね。あれは4と見せかけないように4だった。
さ 4と見せるのではなくて。
な ほとんど分からなかった。
F.D.ロディ 写真は2014年の作品 松・ハカランダ
ま 表面板にも4枚とかあるのだよね。トーレスでも。
ヴァイオリンの裏っていうのは1枚のものがあって、珍重する人がいるね。1枚板というのは見た目はすごくいいんだよ、楓を斜めに使うのだな、全部にこう通っていてすごくきれいだよね。
な なんかこう、わーっと思わせる様な。
ま そう、存在感がある。あれが2枚になるとV字型になったり山型になったりするのだけど、一枚だと全部に通っていて確かにいいんだよね。
さ すごい立体感がありますよね。
ま そう、動かしながら見ると縞が揺れるからね。
さ ローズ系はそういう立体感はあまりないですよね。
ま ヴァイオリンは表面も裏も立体感があるから、実際。ギターの場合はただ若干凸面になっているだけでしょう。ヴァイオリンはこの陣笠型(古い表現!)になっているから。下がって上がって下がるという。
アルティミラ 1855年 松・ローズウッド
さ やっぱりこういう作りって面倒くさいですよね。これ横もそうだけど。これはかなりお金持ちが頼んだ楽器ですからね。
な これも結局合板ですよね、後ろは。
ま トーレスの有名な装飾楽器(FE9)もこれくらいに剥いである。
さ これと当時としてこの人の作品としたら値段は高かったでしょうね。
手間賃、音じゃなくて。
な 裏貼ってますね、これだけやろうとしたらここの目にハギを入れなきゃいけないなと。
さ モザイクだって結構手が込んでいるものね。
ま エジプトの絵みたいな。
さ これはすごいなと思って。
ま このごろ裏板の種類が増えてきてちょっと覚えきれない。
さ 70年代からココボロとかマダガスカルとか使われていました?
ま どうだろう、よくいいだしたのは80年代後半だよね、
さ そうですよね。そのちょっと前から菊地さんがウェンジィとかね。
ま ウェンジィ、あったね。
さ ありましたよね、あれ70年代、重い材でしたね。ちょっと音が鈍い感じ。
ま 見た目はよかったけどね。
さ 見た目はよかったですよね。ココボロの楽器では川田さん長くトライして経験値があるから、ここのところココボロのいやな所が出ないです。いい使い方をしています。使い慣れないと、ココボロってすごいボコンボコンとした音が出るのです。川田さんはさすがに材料の使い方が上手ですよね。鈍重な感じを出さない。良さをだす、重みのある。川田さんはちゃんと材を活かしているというか。いい特徴を活かしている。
ま ハカランダが取引制限品目になったり、良材が枯渇しているというけど、ギターで使う木材なんて世間の消費量でいえば0.0何パーセントのものだよね。だからギターで使ったからスプルースやハカランダが絶滅しちゃったなんていう事はないはずなんだけど…
さ 一番は家具ですかね。
ま 家具なんだろうね。
コナン・ドイルってシャーロック・ホームズの作者ね。ホームズ・シリーズでない小説があって、その中に幽霊船が出てくるのがあるんだよ。大西洋渡ってくる船に乗ったらだれもいないという話。そこに南米から渡ってきたと見られる銘木が積んであると書いてあるの、これはハカランダだなあと、ま、マホガニーかも知れないけど。僕たちがそれを聞いて真っ先に思うのがハカランダ。
さ な そうですねえ。
「か」お弁当の支度中、飲物など出す
久々の放談でグラス一杯だけ乾杯 なんと2年ぶりの収録でした。
お弁当は東京駅大丸で調達
ミルフィーユ寿司、サラダ、ポール・ボキューズのロースト・ビーフのキューブなど。
ミルフィーユ寿司はご飯と魚介を重ねてミルフィーユに見立てたアイデア寿司の一種。サーモン、海老、いくら、かに、などなど。
お寿司はぎゅ〜っと詰まっていて食べきれなかったです。
さ このところハカランダ、○さんがよく買っているよね。南米から。本来は取引禁止品目のはずなんだけど、実はいいハカランダあるんですよね。
ま 「アコースティック・ギター・マガジン」で昨年素材の特集していたよね。ハカランダについては微妙な言い回しをしていたね。なぜかたくさん出てくると。
さ ケヴィンなんか突然まっ黒なハカランダを2000年だったかに手に入れたっていうし。
ま アコースティックのメーカーでまとまって何グロス欲しいといってもないけど、クラシック・ギターの人が1ダース欲しいといったらあるのかもしれない。
さ アコースティック・ギターというかフォーク・ギターの世界の方がハカランダの楽器はより少ないよね。
ま だってフォークの方が数が出るから数作らなきゃいけないから。
な そういう風なモデルとして発表できないし。
さ もっと当局の圧力もあるし。
ま それがね、マーチンのカタログ見るとD45のスペシャル・エディションというか、ハカランダのものもあるよ。特別仕様でアディロンダック・スプルースとハカランダの組み合わせ。ただし、それは特注であって普通のD45はシトカとインディアン。
さ アディロンダックってフォークの世界では王様なんですか?
ま そういう事になっているね。アメリカ東部の地名で、国立公園がある。
さ ジャーマンとかよりも。
ま それはまあ、アメリカだから。マーチンのD28というのがスタンダードで、それに装飾を施したのがD45。D28はラミレスの1aみたいなものだ。1969年まではアディロンダックとハカランダを使っていた。だからマーチン・マニアは69年を以て境として、それ以降のものはD28じゃないとかマニアはいう。Ⅴ型12気筒じゃないとフェラーリと呼ばないとかいうようなもんだな。
さ 一時フォークの世界よく見ていたのですが、もう60年代でハカランダだローズだというそういう値段の事あったのでしょうね。当然ね。中出さんの…
ま 中出さんのギターはいくつもランクがあったね。ただあの頃ラミレスは同じ1aで裏はいろんなのがあった。
さ その話をしたかったんです、今日は。ラミレスって、僕まだ高校生で、荒井貿易がやっていたですが、見たのですけどハカランダ、ローズで値段が一緒だった様な…
ま そうそう、値段は同じだよ。材料で差をつけるってやっぱり日本人が始めたのかなあ。
さ だって日本では、あの中出さんの貴重な…
な ああ、価格表。
ま うん?
さ 60年代、まだ東京オリンピックの頃でしょ。あの頃の価格表があるんですよ。材で非常に細かな価格設定で。
さ これは貴重な物です。ギターのケースの中に入っていました。これがオリジナルかな。(引き取った当時のギターのケースの中に入っていた価格表)
ま ほう。面白い。引き取ったのは?
さ 63年か4年の楽器でしたね。為書のある。
ま 普及品、カッコ息子の作品。この楽器は○のついているDの作品だったのかね。
さ そうですね。45000円。
な かなり種類ありますね。
さ 自作品と書いてありますね。
ま 「表面板輸入松及び、胴背面板パリサンドル材使用…表面板国産材最高材使用…」
な 漢字が多いですね。
さ 面白いよね。
ま うーん、これは歴史的資料だね。
さ 今日のお題にはちょっといいかなと。
この頃最高が9万だったのですね。こういう時代だから1年ごとに上がっていったのだろうな。
ま 昭和38年といったら多分大卒の初任給が2万円行くかどうか。それを思うと、この最高級品は今でいう100万くらいなのかな。
さ 僕が高校で荒井貿易に出入りし始めた頃に、ガラスケースの中に入っていた中出阪蔵さんが一番高いので20万だった。
ま そうだね。ヘッドに彫り物がしてあった。その後、20万が30万になったのだよ。
中出さんの最高級品20万っていうのは他の楽器からすれば破格だったね。河野さんでも一番高いのは10万だった。10万から15万が出たかなという頃。
さ やはり中出さんがプライスリーダーだったですかね。
ま でも大体実売では割引で定価の20万でなんか売らなかったけどね。
さ そういう意味では河野ギターはあまり値引きしなかったですね。
ま うん、河野ギターはしなかった。河野ギターはやっぱり「現代ギター」を作ったというところが一番のヒットだよね。あれですっかり有名になったというか、宣伝になった、といっては何かな…渡辺範彦があれでコンクール優勝して、コンサートで活躍して…
さ やっぱり貢献度は高いですよね。
ま あの頃海外のギタリストも使っていたねえ。当時はホセ・ラミレス3世の全盛時代で別格だったけど、次が河野かなと思うくらい。
さ 70年代、「ま」さんは大学生の頃、ラミレスはまだ…
ま 僕の知っている限りは60年代はハカランダがほとんどだね。
さ やっぱり。ローズのはまだ少なかったんですね。
ま こうして話していると、さっきのマーチンの時代に話が似てくるのだけど、69年位を境に、ハカランダが稀少になってきたのかな。
さ マーチンの世界を見ればそれがわかりますよね。急激に使ったからかな?
な でも、中出さんが価格の差をつけたというのはやっぱり材料の値段とかも。
ま 違ってきたということだね。それに、中出さんに限らず差をつけていたでしょう。その頃の日本のギターは。
さ 「ま」さん、その頃の価格表見ると、非常に日本の楽器って値段が細分化されている訳です。それって日本流ですかね。だって外国のってそんなになかったですよ。いわゆる機械製の物はあったかも知れないけど。
ま ただアグアドとかフレタはそんなに大勢で作っている訳ではないから何種類も作らないのじゃないの? でも日本の製作家は今でもランク付けているよね。
さ 物作りというか伝統なんですかね、人数がいて一人で作るのではなくて、今井さんが中出さんの所にいた頃は相当人数がいたわけでしょ。
ま うん、いたいた。でも今でも今井さんとか、松井さんとかひとりというか少人数でやっているけどランク付けているじゃない。
さ そうですね。でもだんだんと今井さんとか星野さんとか種類が少なくなってきてますね。
ま 松井さんとか今井さんに聞いてみたいのだけど…
さ 今日の話だと当然のことなんですけど、ここに製作者が一人いたら面白かったでしょうね。
ま 高級品一つだけを作っていて、それで商売になるのだったらそれで行きたいものなのかなあ? つまり1aだけを。
な でも最高級品には使えない材があったりしたら…
ま 僕もそう思うんだ。仕入れてみたらちょっと落ちるなという。
な 落ちるけど捨てるほどじゃない。
ま 見栄えが悪いとか。
な でもそれをなんとか活かしたいと思うのですよね。
ま そうすると、そういうので作ったら一番上のよりは安い値段をつける。
な 材質のランクが1から10まであったとして、順番をつける訳ですよね、そこのラインをどこに持ってくるか。5から上を合格としたらそこから上は一律に…絶対にそういうゾーンが発生しますよね。
さ トーレスの時代からありますね。
ま ああ、トーレスもそうだね。トーレスの作った普及品みたいなのあるから。
さ そう、近所の人に頼まれてみたいなの。
ま 18フレットとか、幅の狭いのとか。そういえばラミレスも1世からあるな。
さ 今やね、サード・クラスとか。
ま 前からあるでしょう。エステューデイオ・クラスとかステューデント・クラスとかいう。
さ ラミレス・スタディ。それは知っているのはこの辺りまでですよ。今のエステューデイオはバレンシアで、要するに大工場で、昔のはラミレス工房内だと思いますよ。
1aは当時33万でしたかね?
ま 33から36万になったあたり。
さ あの時にラミレスのラミレス・スタディは20万クラスかな?
ま 18万かなあ。
さ あまり変わらないんですよね。
な 33ていうのは今でいう1aレベルとか。
さ そう。その頃のラミレス・スタディって今市場に出てきてもおかしくないと思うのですが…見ないですね。
ま でも僕もカタログ以外では見た覚えがない。ラミレスといったらあの1aしか見たことない。
さ そんなに入ってなかったんですね。
ま 荒井貿易とかのカタログには書いてあった。
さ 僕は(荒井貿易に)たまたま遊びに行った時に見たのでしょうね。
ま 実物見たの?
さ 見ました。多分当時輸入品は楽譜にしても荒井貿易に一番あったと思う。
な それは間違いないと。
さ あの頃の感覚で圧倒的にラミレス・スタディっていうの、落ちるなあと思った。
ま ああ、なるほど。
さ そういう記憶があります。ただ材の事はさすがに16、7の頃の事でよく分からなかったな。
ま ラミレスは1世の時からカタログがあるらしいね。基本的にいくらで素材をこれにするといくらとか、モザイクを付けるといくらとか、
な カスタムオーダー表で?
ま だから写真集に出て来るラミレス1世できれいな楽器あるでしょう。ロゼッタに貝の埋めてあるような、あれはそういう特注クラスだね。ラミレスというのはそういう訳でその頃から工房スタイルだったんだ。
さ 歴然とそうでしたね。
ま それでね、さっきいった最高級だけを作ってそれで商売になるならそれでいいというのはね、アグアドとかフレタっていうのはかなり見た目に素材の落ちる物でも作っている。それで値段が同じなのか違うのかよくわからない。だってアグアドやフレタの蔵出し値段なんてわれわれ知らない訳だから。
さ そうですね。
ま アルカンヘルなんかはどうなのかなあ。アルカンヘルの二級品って見たことないよね。パラカサじゃなくて、自作品の普及品って見たことないでしょう。
…それでね、ランク分けをしている人はうっかり仕入れた素材にそういうのがあると使うのかしらね。最初からそういうのを仕入れるのか、どちらなんだろう。そうなって商売としてのラミレスが1、2、3とあるとして、最初から3用の物を仕入れるのか…
な それはないんじゃないでしょうか。大量生産のものはそうかも知れませんが。
さ 中出さんとかもスタートの時は全部1本でいい物を作ろうというつもりだったのが、社会の流れでどんどん注文が来て、流れでそうなっていったとかあるんですかね。
な バックオーダーの数とか見たらね…2級、3級のものも。
さ 当然シーズニングなど間に合わなかったでしょう。
ま そうだね、途中からね。でも中出さんは材料たくさん持っていたはずだけど、売れているのはほとんど一番安い5万円。そうすると一番いいのだけ作っていればということはもともと成り立たないんだよね。
さ うん、あの頃はね。
な その当時、中出さんってすごい数だったのでしょうね。
ま それはもう、どこの店に行っても中出阪蔵はあった。
つづく・・・
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7月17日 更新
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