● 鈴木大介ギターエッセイ パート62(2005年7月22日号)
カラカスより無事(体調は少し崩した・・・)帰ってきた大介さん、写真満載のエッセイです。 |
こんにちは!
ベネズエラのカラカス行ってきました。
作曲家の望月京(もちづきみさと)さんのお友達の、アントニオ・ピレジさんとリヴァス・ディオヘネスさんが、もう12年も続けてカラカスで行っている、「Festival Atempo」に、東京シンフォニエッタの皆さんと参加してきました。もとはと言えば、昨年の東京シンフォニエッタの定期演奏会で、望月さんの曲にギターで参加させていただいたのがご縁です。
代表の板倉さん始めとする東京シンフォニエッタのメンバー、マネージャーさん、通訳の方、以下、20名くらいで、どどっと参ったわけですが、カラカスに着くなり、前から見るとどう見ても護送車、もしくは軍用バスなのに、外観はかなりファンシーな感じになってる観光(?)バスがお出迎え。窓は黒くて中が見えないようになっています。「こ、これは、どえりゃぁ国にきてしまったぎゃぁ」と、たじろぐ間もなく、ホテルに着くや水の配給。「これも現地の水ですからがぶ飲みしないでくださいね。」洗面台の蛇口も二つあるけど、出るものが一緒なのでどっちがお湯だかわかりません。実際、翌朝お湯が出るようになってからも、しばらく水の方ひねって、「おかし~な~」とやっていました。
でも、ホテルのご飯は朝昼ビュッフェで、昼は毎日メニューが変わったので、食事にはあきません。東京シンフォニエッタのみんなが、リハーサルのためにホールで食事をする日には、レストランのセニョールが、「今日は来ないの?」とそうとう悲しそうな顔してました。毎日宿泊者の人数見ながら作ってるみたいです。僕は一人別行動で、最初の2日間はホテルに缶詰だったので、昼食は皆勤賞。留学中にホアキンのお母さんのミネルバがよく作ってくれたみたいな豆の煮物と、コーヒーがおいしかったです。あと、スープも日によって違うんだけど、豆のスープがおいしかったな、あれ、豆好きだったのか、俺。
大使館公邸のパーティがあって、2曲ほど演奏。ラテン・パーカッション奏者のYanezさんとだめだめ(XX)なスペイン語&日本語話で盛り上がりました。え~つまり、上品で美しくはない、むしろその対極と考えられる言葉の数々について、相手の国の言語で披露しあうと言う、よくどこにも見られる草の根国際交流を繰り広げたわけです。Yanezさんは、日本に住んで太鼓を勉強したことがあって、今はカラカスでサルサやっているらしいです。奥さんが優しかったです。
僕のスペイン語はほとんど片言なので、レストランではこのようにジェスチャーが主となります。
ベネズエラでの食事。コロッケと揚げパンの中間みたいなのとチーズ、魚介のスープ、肉料理、といいますか、焼いた肉。
演奏会は連日大盛況で、お客さんも「ヒュー」とか「ブラボー」とかいって盛り上げてくださいます。音楽は楽しむもの、ということが、ベーシックに身体に充ち満ちているので、日本の作曲家の現代音楽でも、「すげぇ~」っていう感じで聴いてくれているのが手に取るようにわかるのです。私のソロ・リサイタルは、わりと直球な近現代ものラテン・プロでしたので、じっくり、腰を据えて聴いてくれている感じがあって、とても充実した体験をさせてもらうことが出来ました。しかし、それにしてももう二度と見ないようなへんてこりんなステージと客席の関係。Venezuela の「V」なんですか?
楽しみを見つけると、人々は心を裸にして、熱狂してくれるベネズエラですが、大使館から配られた冊子によれば、カラカスでは毎週末に150人以上の人が殺害されてしまうそうです。僕も単独行動して何かあると困るので、合間合間に街に出ても、バスから離れて一人歩きすることはなかなか出来ませんでした。カラフルな郊外の街の建物と、そこに住む素朴な人々の暮らしは、少し歩けばスラム街という状況を忘れそうになってしまうくらい、平和だったし、少年や道行く人たちの瞳にも、純粋な心が映っていたと思うのですが、言われてみると確かに、その奥深いところでは、静かな、諦観のようなものを漂わせている人が多かったかもしれません。
そういう状況で、今眼の前にいる人たち、もう会うことが出来ないかもしれない人たちに音楽を伝えることは、想像以上にタフです。でも、ほんとうはそういう場所から音楽は始まるのだという確信も、今回の旅であらためて学び直したことです。多分それは、ナイフに反射した銀色の鋭い陽の光のようなDマイナーの響きだったり、東京の、音響空間に優れたホールでは必要ないような、つかみ取ったように粘りのあるマルカートだったり…そうした表現によってこそ、どうしても譲れない、明け渡すことのできない自分の中の真実の部屋から、音楽を伝えることができるのだと思いました。
今回の特典画像
ディオヘネス夫人作 クリスマスの伝統料理「アジャカ」
微妙に素性の響きあっている3人、あるいは「俺たちは天使だ」
右より、斉藤和志くん、望月京さん、自分
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7月17日 更新
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