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● 鈴木大介ギターエッセイ パート57(2005年3月8日号)

3月19日のギター・エラボレーション、自身でチラシを作ってしまった大介さんです。スケジュールの3/19のタイトルをクリックして見てあげて下さいね!

こんにちは。

今月は毎週違うプログラムな鈴木大介です。

先日、ラジオ番組で、藤舎名生さんという、鳴りもののすごい方と共演させていただきました。藤舎さんは音楽は自然から与えてもらえるものなのだと言われました。宇宙の、聴こえていない音を音楽にしたのは武満さんだったかと思いますが、まさにそんな感じのことをおっしゃっておられました。藤舎さんは子供の頃、やはり鳴りものの家元であられお父様に山へ連れて行かれ、「毎朝ここで笛を吹いていなさい」と言われたそうです。誰に教わるでもなく、ただそうして毎日山に行っては笛を吹いていて、いつの間にか笛を習得された藤舎さんは、故中村歌右衛門さんからもたいへん愛され、ローマ法王の前でも演奏されたという、たいへんな巨匠なのですが、お会いした感じは、何と言うか、陶芸の達人みたいな「ものを作る人」の風格を備えておられました。

小さい頃から、感覚を研ぎすませて自然や宇宙の聲を聴き続けて来きたすごみというのに圧倒されながら、僕は自分の弾いている音楽、とくに西欧の語法で書かれた音楽の、個人の意志の強さ、というものを再認識していました。同時に、そういう人工的な構築において自然であることの難しさと、そこにいたる遠い道のりのことを考えていました。

ブランドン・ロスさんと会ったとき、そこに起こることに逆らわず、かつ最短の、もっとも切り詰められた道のりで高いテンションを維持していく、みたいなことについて話したのですが、バッハのアルマンドを素材にして藤舎さんと行ったインプロヴィゼイションは、それに似ていました。

クラシック音楽はとても考え抜かれて作られていて、発生の起源や過程にケアしなくても、楽譜さえ読めて、楽器の弾き方と言うこれはかなり専門的でスポーツ的でもある要素を身につけてしまえば、ある程度の高みに誰もが到達できてしまうようなっています。そのことが、世界中の民族音楽を取り込んで、なおベーシックな語法であり続ける要因でしょう。乱暴に言ってしまうと、とても洗練されたマニュアルが出来上がっています。でも、クラシック音楽でも、ほんとうに人を感動させる演奏家は、そういうところから脱しているのですね。そういうことを、改めて考えさせられたのでした。

と、それはさておき、スケジュールからリンクしている自作のチラシ、ご覧くださいましたでしょうか?、各方面の方からおかげさまで「やりすぎ」と呆れ評高いチラシでございますが、それだけこの公演にかける意気込みということでございます。もうほんと、だったらお前もう半月前に作れよ、って感じではございますが、どうぞ皆様、急なお誘いではございますが是非おでかけくださいまし。

今回は、「ギター・エラボレーション」シリーズ初の室内楽編です。テーマは「自由への音楽」。ヘンツェもマデルナも、現代音楽のファッションの中心に位置しながら、時に情緒的とさえも言える、感覚的な作品を残しています。大向こうを解説でうならせてなんぼの20世紀音楽においては、その官能的な音楽は時代遅れとさえ言われかねなかった訳ですが、今や21世紀ともなってみれば、そのような、「しっかりとした論理的構築を操れる作曲家による、からだで反応できる音楽」こそが、今後も語り継がれる良質な音楽なのではないでしょうか、という、無知を棚上げにしたといえなくもない壮大なテーマを掲げ、しかも選んだ作曲家は歴史に名を残す巨匠ばかり。僕自身も、こんなに名曲を集めてしまって、今後大丈夫なんだろうか、思うくらいエキサイトしております。
「自由への音楽」というテーマには、難しさにとらわれない音楽的な自由、という意味の他に、「戦争」や「政治」にたいして自由であった、という意味もあります。僕は音楽家、ことに作曲家の方達というのは、多かれ少なかれ、ご自身の民族や世界におけるその在り方について無関心ではおられないだろうと思います。でも、誤解を恐れずにある立場をとり、ほんとうの意味で人間の自由のためにたたかえた作曲家が、音楽の歴史を作ってきたといっても言い過ぎではないでしょう。大バッハにしてもモーツァルトでもベートーベンにしても、個人のおかれた状況のなかで一生懸命に最善の在り方を考えたのだと思います。たとえ、そのような態度が、後世において、ある種の偏った立場を取ったと見なされてしまったとしても、ほんとうにいい音楽を残した作曲家は、みな人間の生きる自由について敏感に思考した人たちだと思います。
そんな、真剣に生きた人たちのメッセージを、是非みなさんともう一度聴いてみたいです。

というわけで3月19日、HKUJUホールにてお待ち申し上げております。