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● 鈴木大介ギターエッセイ パート9

暑い日が続いていますね。夏真っ盛りの中、相変わらずパワー全開で大活躍の大介さんです。
大介さんの最新エッセイです。

 

 みなさん、御無沙汰しております。

 このページのスケジュールが更新されない間にも(してなかったのは私だが)、鈴木はせわしく日程を消化して参りました。7月5日には盛岡で香津美さんとデュオリサイタル、なんと前半がすべてバッハ作品というありがた~~い一夜で、あまりのおたまじゃくしの多さに鈴木はみるみる真っ白になってゆく脳内にやっとの思いで活をいれたのでした。そして、9日には小松亮太くんの率いる「タンギスツ」のメンバーとしてオーチャードホールにあらわれ、15日には岡山シンフォニーホールにおいて鈴木理恵子さんやバンドネオンの京谷弘司さんたちと、やはりピアソラのタンゴを中心にしたステージ、18日は鈴鹿でタンギスツと、はかったわけではないのにピアソラ五重奏団のギターパートを引き続ける日々になってしまったのです。ピアソラのキンテートのギターはエレキなので、亮太くんのバンドでは98年のマルタ・アルゲリチさんの公演でうしろのオケ中で弾いて以来、エレキギター小僧再来(もう笑ってごまかせる歳ではないが)となってしまいました。

 ピアソラのバンドの歴代ギタリストでは、何といってもカチョ・ティラオがダントツにテクニシャンで、鈴木は久々に泣きが入ってしまいました。知らない方の為にちょっと説明しておきますと、アストル・ピアソラのバンドの中で、もっとも代表的と言えるのはバンドネオン、ピアノ、コントラバス、ヴァイオリン、エレキギターからなる5重奏団(キンテート)で、このキンテートの(途中空白もあるものの)長きにわたる活動に参加したギタリストは3人、オスカル・ロペス・ルイス、カチョ・ティラオ、オラシオ・マルビチーノで、僕としてはロペス・ルイスのジャズ風味ゆたかなカッティングからみ系ギターもたまらないんですけど、やっぱり何といってもティラオの正確無比なピッキングと鮮やかなスケールの指さばき(見たわけではないが)には脱帽。アコースティックギターを弾いているときの、あのどちらかというと「味の人」的な印象はふっとんでしまいました。

 ピアソラのエレキギターの譜面というのは、あまりソリスティックなものではなく、バンドネオンとユニゾンであったり、ヴァイオリンのウラメロだったりすることが多いのですが、実際演奏してみて分かったのは、その一見地味ながら見事な楽器の扱いでした。例えば、バンドネオンとエレキギターがユニゾンでひとつのフレーズを演奏してゆくと、バンドネオンの音色にヴィブラフォンのような輝きが加わります。それから、バンドネオンという楽器は蛇腹楽器なので、ひとつひとつの音量がでこぼこするんですけど、それを後ろからエレキが支えることで聴いている側の安心感も増します。このような「ユニゾンの妙味」は、同時に伴奏にまわった時のピアノの右手和音との重複にもいかされています。つまり、音楽をより説得力豊かな物にするために、輪郭線を強くして音色に輝きをあたえる、それがエレキギターの重要な役目のようです。従来のアコースティックでかきならすタンゴギターの存在感とはまたく趣を異にする、ピアソラならではの発想です。

 以前、ピアソラの後継者の一人とされるモサリーニが、ピアソラ楽団にも在籍していたヴァイオリンの名手アントニオ・アグリとともに五重奏団として来日して、ピアソラトリビュートのプログラムを演奏した時には、この楽団のギタリスト、レオナルド・サンチェス氏(この人がまたやになるくらいやたらうまい)はエレアコみたいなガットギターを使ってピアソラの曲を弾いていて、その時はまったく違和感なかったんだけど、今聴いたらどうなんだろう?

 父がタンゴファンで、といってもその世代の人はたいていそうなんだろうけど、小さな子供の頃からタンゴのレコードを聴いて育って、我が家の車の中ではフランシスコ・カナロのタンゴとキャンディ・キャンディのテーマが交互に流れるという恐ろしい幼少時代をすごした僕は、いやが上にもタンゴの世界の奥深さみたいなものが近寄りがたいものとして存在していたので、今回のタンゴ修行は願ったりかなったりだったわけですが、やはりあの「ヴ~ズチャッ」みたいなカッティングはピック弾きでないと出ないし、エレキの効能も分かってきたしで、これからは自分のクラシックの演奏会でのピアソラ作品の演奏にもそれらが反映されてくることでしょう(武満にも反映されたりして)。

 

 12月のバンドネオンとギターのためのコンチェルトをお楽しみに!!