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● 鈴木大介ギターエッセイ パート10

お待たせしました。約半年ぶりの大介さんのエッセイです。
新世紀を迎えて、益々活躍が期待されますね。今年はどんな事で私達を驚かせて(?)くれるのでしょうか・・・

 

 新世紀を迎えて、気分も新たに日々を過ごす人も多い今日この頃ですが、鈴木は完全に寝正月をやってしまいました。ごめんなさい(誰にあやまってんだか)。
何と行っても昨年は2月に出るCDのマスタリングで年末まで仕事と朝帰りをフル回転してしまい、気づいてみれば21世紀。来世紀のことだもんねー、と思っていた仙台フィルとのツアーもなんと突然来週のことになってしまった、いけませんいけません。そういえば2日にはるばるアメリカ合衆国からカレーを食べにやってきた村治家の長男奏一くんがホームページに日記を書いているそうなので、それにあやかって今回は「スズキダイスケin仙台 三日坊主のダイアリー風」をお送りいたします。

1月7日
仙台に出発。コンチェルトというのは、よほどの現代曲でない限り前日に一回リハーサルをして即本番なのだけれど、今回は指揮の外山雄三先生のご厚意で二日間の練習に参加させていただく。外山先生はあの巨匠ナルシソ・イエペスをはじめ、ジョン・ウィリアムズや多くの演奏家達とアランフェスを演奏してきた方なので、オーケストラの弱音がひときわデリケート、決してギターにかぶらない。昨年の11月に大阪フィルとの共演もさせて頂いたのだけれど、アランフェスやギターの響きのことをあまりにもよくご存じなのでこちらが緊張してしまいます。この日もオケのメンバーからPAを使用するかどうかの確認があり、外山先生は「僕はいらないと思うけど彼は使うそうです」とみんなを笑わせていた。弱気なわたしですいません。仙台フィルは、実はこの5年くらいの間にに僕の友達の強者ミュージシャンが何人も入団していて、心強く頼もしい。以前からの真摯でピュアな特色がさらに深みを増していた。スタッフの方々もとてもいい人達で、ごめんなさい初日からうちとけムードになってしまいました。

1月8日
うちとけついでに厚かましくも、仙台フィルの新年会に飛び入り。
楽員有志によるジャズバンドに乱入させていただく。明日は仙台公演、がんばるぞ。ちなみにこの日は仙台市内が20年ぶりとさえいわれる大雪にみまわれ、凍える。えらいときに来ちゃいましたねと賛辞を浴びる。

1月9日
仙台電力ホール。いやー、やってしまいました。開幕投手(私)肩に力の入りすぎで初回二者連続四球の後高めに浮いた玉をレフトスタンドに運ばれ4失点。その後コントロールに苦しみながらも監督(外山先生)の采配と守備陣(オーケストラのみなさん)のフォローのおかげで七対六でなんとか勝利、っていう感じの演奏で、仙台のギターファンのみなさんほんとにごめんなさい。それでも仙台フィルのファンのみなさんは温かく、演奏後はアランフェスとは思えない(??)くらいの熱いブラボーで迎えてくださった。明日もがんばるぞ。

1月10日
盛岡市民文化ホール。昨年の7月に渡辺香津美さんとバッハを演奏した会場の大ホール。なれた場所のこともあって悔いのない演奏。この日は投球を低めに集めて初回をきっちり三人で終わらせました。ギター制作家の水原さんが応援に来てくださる。

1月11日
福島市音楽堂。レコーディングがよく行われる響きの良いホール。仙台フィルとの楽しかった5日間も、これで最後かと思うと熱いものが湧きあがってきます。
僕はどんなに良いホールで公演の時も基本的にコンチェルトではうすめのPAを欠かさない。それはCDなどで耳にする、リラックスしたギターのつま弾かれる音と、実演での音色のギャップをなるべく出したくないからなのだけれど、この日はどういう訳か本番でアンプが出力しない。ステージ上で困っていると、外山先生が「いらないんじゃないか」と言われる。そして外山先生客席に向き直って、「ご説明いたしましょう。僕はこのギターの名人(???)と何度もコンチェルトを演奏していますけれど、僕はいつも彼の音量だったらマイクなんていらないんじゃないか、と言ってきたんです。それなのに彼は頑固にもマイクを使うと言ってきかないわけですが、今日はどういうわけかマイクの電源が入りませんので、このすばらしいホールですから生音で演奏します。」
そしてついに鈴木大介アランフェス初生本番(なんのこっちゃ)!!
オーケストラのみなさんも突然のハプニングを楽しんでくださり、集中力と一体感のあるアンサンブルが楽しめた。終演後のお客さんも、生で聴けて良かったと喜んでくださり、中には途中でマイクの電源が復活した」と思った人までいたくらい。予期せぬ形で仙台フィルと外山先生との五日間は、忘れられないエンディングを迎えた。

 各ホールの公演スポンサーの方々、聴きに来てくださった聴衆のみなさん、スタッフのみなさん、オーケストラのみなさん、そして外山先生、ほんとうにどうもありがとうございました。